ゴキブリ

ゴキブリを殺しました

ゴキブリが苦しみ抜いた床に寝そべります
ゴキブリが出てきた毛布を被ります
ゴキブリが歩いた枕で眠ります

ゴキブリを殺しました
黒くて大きくててかてかして立派なゴキブリでした
スプレーをかけたら死にました
お腹がうねうね動きました

殺したくせに怖いと言って
触りもせずに袋に縛って
どこにどうやって捨てるんだと
焦って考えて人に任せてそれで
しばらくこの狭い世界の不特定多数の同居人だった彼は
きっとまだこの部屋にいるのでしょう

ゴキブリを殺しました
あんなに大きくて立派な彼を
あんなに命懸けでポテチを食べようとした愛くるしい彼を
あのポテチの美味しさを全身で表現する素晴らしい彼を
ポテチという共通言語のできた貴重な同居人である彼を
どうして殺すのか真面目に考えもしないで
とにかく赤茶の小さいやつじゃなくてよかったと
咄嗟にこの家の評判が
いや私の部屋の評判が 落ちることを考えているような気がしながら
なんにも知らないけどとにかく汚いから


いや

ただなんとなく殺したくなったから

ただ皆んながするように

私もゴキブリを殺しました


その上
彼が欲しがったポテチすらも気味悪がって
ポテチも一緒に捨てました
なんにも考えずに彼の亡骸と同じ袋に入れました
彼はあの世でも
彼の苦しむスプレーのかかったポテチを食べることになるのです

一生懸命道徳を学ぶ小学生の皆さん
これのどこに道徳がありますか
教えてください

私は
そうやって
ゴキブリが死ぬスプレーをいつでも持つことのできる手で
愛する人を撫でるのでしょうか

そうですね
ニュースに出てくる通り魔と
教科書に載っているA級戦犯の彼らと
一体何が違うのか
分からないこの手で
私は
愛する人を撫でるのでしょう

輪郭

壊れかけのレディオという曲があるが私のラジオは壊れてしまったのかラジオじゃないレディオレイディオレイディオでもないCDデッキ違うアップルミュージックあれほどたくさんの音楽があるというのにあれほどなんでも聞かせているのになぜかなんにも聞こえてこないよ私の耳が壊れているのか?
ライブじゃなくて聞かせておくれよ変わらぬ音変わらぬ声変わらぬ言葉いつもおんなじおんなじ調子でわたしを刻む何億光年の一曲リピートでこの世界から銀河系からブラックホールから抜け出してしまいたいとあれほど思っていたのに一曲も最後まで聴いていられないよ曲だけじゃないよ本もコミックアプリも詩集も絵も水も毛布も全部全部どこへ行ってしまったのかどこにいるのだ私は今いったい?何が私を何億光年の速さで連れていくのだ
同じ字を何度も何度も何度も書き続けてゲシュタルト崩壊して順調に気持ち悪くなってきて手が痛くなってきて書けなくなってきて書けなくなってきてそれでもそれでもそれでも書き続けたらその先に何があるのだろう?それは何億光年の速さだと思っているけれど
変わらぬ音変わらぬ文字変わらぬ色変わらぬ配置変わらない変わらない変わらないがあれほど私を支えていたのに私はこれから一体何で社会と繋がっていけばよいというのか腐った匂いが強くなる強くなる強くなってどんどん変わっていくそれは私の身体から漏れ出ているのかそもそも何を嗅いでいるのだ私は?見よこの鏡真っ黒の画面の奥にうつる私の目の見開き様をおおなんと恐ろしいのだこれは私なんかじゃきっとないはず
自分にある何億光年の真っ暗闇と自分にある何億光年の速さの不思議を知ってしまったいま何で息をして何で排泄をして何を塗たくって何を飲んで何を嗅いで何を聴いて何を見ていればああはやく私の輪郭輪郭輪郭輪郭輪郭になる変わらない何かをはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくみつけないと
さてこれから人という文字を身体中に何億光年も書こうと思う

銀色の夜 真っ黒の夜

夜には 銀色の夜と 真っ黒の夜があって

シト シト シト シト 雨の夜も

月の光よ 雨粒 雨粒 雨粒たちを

みんな照らして 銀色になれ

私は 窓を開け 目を瞑り

銀色の 月の子雨粒たちを すこし 部屋に迎え入れ

冷房の残り漂う 真っ黒の部屋に

むわりと押し寄せる 湿った夏の匂いに

身をまかせて 夢を見よう

ザブーンと お月様の 

裏の側まで 羊を数えて

私は 君を 助けに行くんだ

臓物縮まる 真っ黒の海を どんどん どんどん 深く 深く

ガタ ガタ ガタ ガタ 肩が震えて

今すぐ目を開けて 部屋まで息をしに行きたい でも

それは しないで 決して しないで

悪夢の 海の その底に 怯える 君が きっと いる

どん どん 悲鳴が 近づいて

孤独の 阿鼻 叫喚と 言わん ばかりに つんざいて

私の 叫び 声が どれかも 分からずに

それ でも 君を 助け たい から

後ろ に 銀 色 月 の 子 雨 粒を ひき 連れて

君が どこ に いて も 迷わ ぬ よう に

キラ キラ 光る 街 の 灯り に なって 周ろ う

そ う やっ て いっ しょ に

いっ しょ に こ の おそ ろし い 夜 と いう も の を

力 を 合わ せ て 越え て ゆ くん だ

だ い じょ うぶ なん ど だっ て たす け に い く  か  ら

だ  い   じょ   う     ぶ



(うそつきとこわがりの秘密基地「この街」をもとに文章を書き、読ませてくれた吉野光太朗に感謝申し上げます。この詩は、その文章をもとに作りました。)

見送り

白い壁にうつる きいろくてしかくい光が
伸びて すうと消えてって
軋むドアの音 そぞろ

そうか 君はしかくい陽だまりで
ずうとここにあったのか

そうやって 君は流れ星のように
ほんとうの姿を見せたのか

君は しかくい陽だまりで
それで 私はずうとほんのりして

君は 流れ星で
それで 私は明日を願って

そうか そうか そうなのか

そうやって静かに 見送った

蝉 一ぴきだけで ミーンミーンとないている
ミンミン蝉は こんなにも もの哀しいやつだったのかと
ぼうっと聞いている
遠くで くま蝉のこえ

私は 一ぴきのミンミン蝉の 波打つ胸を思う
夏の湿度をゆらし 私の胸を打ちつける
扇風機は力なく 私の胸は汗をかき
叫びたくなっている

ミーンミンミンミン
私はどこにいる
ミーンミンミンミン
これは私のなきごえか
ミーンミンミンミン
ああ 自分のことばかり
自分のことばかりで終わっていく
これは虚しさか

本とお米と少しの私

今日一日は何もせず
本屋へ行って本を買い
ほんの少しの本を買い
帰りにおいしいお米を買って
眠くなるまで過ごしていよう

たくさんのさようならに泣きもせず
あたたかい喜びだけを愛でていよう
そうする自分を
優しく優しく撫でていよう

いただきます

いただきます
君の世界にいるものを
私がこれから
いただきます

ああ
おいしい
おいしい
君の世界にいるものは
どうしてかこんなにも
おいしい

君の世界にいるものが
どんどん私になっていく
そのうち君も私になって
おもしろおかしくやってよね

おいしい おいしい
ああ おいしい
君の世界をどんどん食べて
食べて生きて 食べてまた生きて
どんどん私の体内が
君の世界で埋めつくされて
いつの間にか
君と同じ世界にいる

そんな夢が 現実が
泣くほどおいしい

ごちそうさま

とびきりに明るいものが作りたい

君の 少なくとも半分くらいが私の中にいて
勝手に 私のからだを操るのが分かる
なぜかあの人 なにかの一言 どれかの光景に
鳥肌を立てたり 血の気を引いたり 胸を拍打たせたり
突然話さずにおれなくなったり ふとえずいたり
私のちんぷんかんぷんなところで
でも これはたしかに
君が私を操るがごとく

そうか一緒にいるのなら
とびきりに明るいものが作りたい
とびきり人に優しくしたい

と ものすごく思っています
一緒に頑張ろう

這穢為

私は 自分のせいにしてほしいとか 思っていて
でも 本気で自分のせいだと 思っている人がいて
よくよく考えたら 私も
私よりはあなたのせいだと思ってる

そうやって また誰かを踏み台にしてる
どうしても私だけのせいとは思えなくて
自分だけのせいと思ってもおかしくない人がいることに
安心してる ものすごく
ものすごく そうやってまた誰かを

ああ醜い
死体を食い散らかすハイエナのようだ

ほんとのことなんて もう誰にも分からなくて
もしこの人のせいだと明かされることがあったって
そんなのは あんまり意味がない
分かってる 分かっていても どうしても

安心してる ものすごく
また人を食べようというのか

美しいものは儚くて、汚れたものが生きる

泣くっていいことだ
悲しくて涙が出る
それだけで
自分の泣き方が気になったりする

泣かなければ泣かないで
泣かないことが気になりはじめる
泣きやめば泣きやむで
どうして泣きやんだのかと考えたりする

歌うっていいことだ
悲しみを声にする
自分の声が気になる
いい歌にしようとする

言葉にするっていいことだ
悲しみを言葉にする
自分が何を言うかが気になる
自分に正直になろうとする

悲しむ人になってみるっていいことだ
自分の中に確かにあるものを取り上げて
ひとつひとつ大事にする
悲しんでいない自分に気づいたりする

自分のことが気になりだすのは
今ということに冷めていて恐ろしいと
思ったりもするけれど

冷めてなんかいるもんか
夢中になってどうすんだ

生き物にもならず
歌うたいにもならず
詩人にもならず
役者にもならなくて
生身のままで夢中になって
それでその先になにがある
ああ、美しい、くやしい、くやしい、

せめて生き物で
せめて歌うたいで
せめて詩人で
せめて役者で
生身でいるより汚れてたって
それで死なずにすむんだから
そういうのだっていいじゃないか

こっちに来い

そんな
いきなり無機物になられても困るっていうか
いや困られましてもって話なんやろうけど
だって前までここにいたやんか
私いると思って電話かけたんやって
なんで
なんで

私のせいってことにしてください
そのくらい好きなの
都合のいい距離感に泣いちゃうね

だってあなたはたしかに一年前に
ずいぶんもろくはなったけど
私の前では一回も
わめくことなんかなかったし
純粋でいられる遠さでどうしようもなく
大事にしてたのよ
大事にしてたんやって

私のせいでいいやろう
私のせいにしておいて
ほんとのことなんか見なくていいよ
こっちに逃げてきなよ せっかく
せっかく捨てたっていうんやろ


楽しみ

たくさん結婚してみたい
結婚しようと言われたら
あら面白い乗ったワ と
言えそうな人と付き合って

アナタシカイナイノ みたいな
つまんないことはやんないで
あなたがいるからこんなに自由 と
笑い疲れて眠っちゃうの

子どもができたら愛するワ
何人できても愛するワ
他に好きな人が と言われたら
あら残念世話になったネ って別れてやって
一晩泣いてデートに行くワ

仕事がどうとか時期がどうとか
つまんないこと言わないで
恋愛も結婚も子どもも
絶対良いものに違いないもノ
ややこしいのとゴッチャにしないで
一番正直に楽しむワ