ゴキブリ

ゴキブリを殺しました

ゴキブリが苦しみ抜いた床に寝そべります
ゴキブリが出てきた毛布を被ります
ゴキブリが歩いた枕で眠ります

ゴキブリを殺しました
黒くて大きくててかてかして立派なゴキブリでした
スプレーをかけたら死にました
お腹がうねうね動きました

殺したくせに怖いと言って
触りもせずに袋に縛って
どこにどうやって捨てるんだと
焦って考えて人に任せてそれで
しばらくこの狭い世界の不特定多数の同居人だった彼は
きっとまだこの部屋にいるのでしょう

ゴキブリを殺しました
あんなに大きくて立派な彼を
あんなに命懸けでポテチを食べようとした愛くるしい彼を
あのポテチの美味しさを全身で表現する素晴らしい彼を
ポテチという共通言語のできた貴重な同居人である彼を
どうして殺すのか真面目に考えもしないで
とにかく赤茶の小さいやつじゃなくてよかったと
咄嗟にこの家の評判が
いや私の部屋の評判が 落ちることを考えているような気がしながら
なんにも知らないけどとにかく汚いから


いや

ただなんとなく殺したくなったから

ただ皆んながするように

私もゴキブリを殺しました


その上
彼が欲しがったポテチすらも気味悪がって
ポテチも一緒に捨てました
なんにも考えずに彼の亡骸と同じ袋に入れました
彼はあの世でも
彼の苦しむスプレーのかかったポテチを食べることになるのです

一生懸命道徳を学ぶ小学生の皆さん
これのどこに道徳がありますか
教えてください

私は
そうやって
ゴキブリが死ぬスプレーをいつでも持つことのできる手で
愛する人を撫でるのでしょうか

そうですね
ニュースに出てくる通り魔と
教科書に載っているA級戦犯の彼らと
一体何が違うのか
分からないこの手で
私は
愛する人を撫でるのでしょう